祝生日
 
 
「これは?」
 
「凍らせた薔薇ですね。まったくこんな煮ても焼いても食えないものを送ってくるなんて馬鹿じゃないかと」
 
「食べ物なのか?」
 
「物のたとえです。どうしようもないものっていう」
 
イギリスから冷凍便で送られてきた大きな箱の中には大量の真っ赤な薔薇。
 
 
「まあこっちはいいとしましょう。まだ家に入りきるものだったら訳が分からなくても許してやる。しかし中東の輩は最近本当にアクセスが無いからどうでてくるのかまったく予想が・・・」
 
「何をぶつぶつ言ってるんだ」
 
また呼び鈴が鳴らされた。
 
 
「お爺さんからの現金書留でした。筆書きの手紙がついてますね。これで好きなものを買いなさい。カブトムシがたくさんいるところを見つけました、夏休みに来てくれるのを待ってます・・・」
 
「うちの爺は俺をいくつだと思ってるんだ」
 
「ありがたいことじゃないですか。そうですね、そろそろ日本にも行かないと。あ、また何か来た」
 
 
「どうした」
 
「小包なんですが、差出人の名前が無いんです。怪しいですね。危険ですから少し離れてて・・・うわあっ!」
 
「どうした!うっ!」
 
箱からはいきなり大量のスモーク。そして弾ける金粉。
 
「なんだこれは!まさか王子のいたずら!?」
 
「あいつはそんな暇じゃあないはずだが・・・ん?帽子?」
 
「帽子?本当だ。羽根帽子?会長?いやでも会長からの大量の最新モードの服はすでに一昨日届いてるし。あ、メッセージカードが。グラッティス、ネズミ人間より愛を込めてってはいはいこれは誤配ですね。さあて食事の用意を」
 
「俺宛だぞ」
 
「しかしなぜうちの住所を・・・しかも清劉の誕生日まで。ってかなんでネズミ人間と呼んでることを知ってるのか・・・ひっ、殺される・・・」
 
「食事はいい。酒」
 
「誕生日くらいお祝い料理を作らせて下さい!」
 
「ケーキなんか焼くなよ。あんなもの大嫌いだ」
 
「そんな。せっかく3段重ねの豪華なのを作ろうと昨日から仕込んであるのに・・・」
 
「おまえ、忙しいから稽古はできないって言うから仕事かと思えば。そんなくだらないことはいいから手合せしろ!行くぞ!」
 
「えええ!ちょっとだから誕生日くらいそういうのは休みましょうって、分かった、行きますよ、行きます!いててて引っ張らないで下さいってああもうー!」
 
 
 
 
 
 
 
「もっと開けますか?」
 
「今日は優しいな」
 
「誕生日ですから。でももうすぐ日付が変わります。明日からはまたお酒は制限しますよ」
 
「今年は星が見える」
 
「ん?ああそうですね。天の川が綺麗です。はあ。しかし毎年毎年贈り物が増えて、見てくださいこの箱の山。星祭どころじゃない一大イベントですよ。あ、でも」
 
「ん?」
 
「今年は王子からは何も来なかったですね。何というか、身構えてたのに肩すかしでした」
 
「だからあいつは本当に忙しいんだ。この十年で全てが決まる。一分一秒も余計なことは考える暇はない」
 
「そうですか。それは・・・辛いですね」
 
「ああ。でもきっと必ず良い結果を出す。だから今こうして何も来ないのが一番の贈り物だ。これが一番嬉しい」
 
「よく分かりませんが、清劉が嬉しいならいいです」
 
「本当に今日は優しい」
 
「私はいつだってあなたには最高に優しくて甘い男だと思ってますが」
 
「そうだな・・・」
 
晴れた星空の下で、たくさんの愛に囲まれて、最高に優しい腕の中で
追憶の香りを想う・・・幸福な夏の夜
 
 

拍手する

 

(2013/07)
 

 戻る

inserted by FC2 system