DOWN
 
1.
 

本家のお坊ちゃまのお零れに預かり幼少のころから英才教育を受けて来たお蔭で自分はそれなりに力を備えていると自負していた。

追いやられた形ではあったけれど更なる力をつけ最短で卒業し大手を振って凱旋してやれば、無能な長老どもの鼻を明かせるとそう思っていた。

 しかし実際二十歳そこそこの頼るあても無い学生ふぜいが一人異国で生きていくのは容易なことではなかったのだ。さらに追い打ちをかけるかのように戦争が始まりそれを理由に李家からの奨学金が届かなくなるととたんに生活は困窮し勉強どころではなくなってしまった。

 俺の能力を惜しんでくれた担当教授が知り合いだという中国人の成金に話をしてくれてそこの系列の中華料理店で働かせてはもらったが、そんな下働き程度の収入では焼け石に水だった。

 家賃が払えないのでアパートを引き払い、中華料理店の物置に住まわせてもらい客の残飯を食した。そんな生活では本も読めず、勉強を続ける余裕などありはしなかった。

 

その日はいつもの担当が休みだったので代わりに食材の配達を頼まれ高級住宅街に出向いた。大きな石の門。その先延々と続く英国式庭園と城のような大きな館。これでも別宅の一つであって本宅は本当に中世から続く城壁に囲まれた古城であると聞いて欧州の金持ちの果ての無さに飽きれるしかなかった。

 李家の本宅もこれほどではないがかなりの広さだった。翼劉が支配し愚兄や親類どもが住みつくあの館に今でもルウはいるのだろうか。立派な離れを与えられていながら全く寄り付かず遊び相手の家を転々とし、たまにふらふらになって現れては俺のベッドで熟睡していったルウ。安らかに眠れる場所は見つかったのだろうか。

 ようやく建物に辿り着き、裏口に回ろうとした時に一台の高級車が玉砂利を踏みしめてエントランスに停まるのを見た。

 ほどなく少し浅黒い肌の紳士が降りてきた。ここの主人だろうかと思ったがただの使い走りの自分が挨拶するのはかえってマナー違反だろうとそのまま急いで勝手口に向かおうと足を早めた。しかし次に車から出てきた光の塊には思わず目を取られ足が止まってしまった。

自ら輝き柔らかく波打つ黄金の髪。最上のサファイヤのような深い青の瞳。すらりとした長身で見るからに高級なシルク生地のスーツ。

そうこうしている間にエントランスには大勢の使用人が集まり皆一様に頭を下げてその人離れした風貌の者を迎えたのだった。

 主人・・・にしては若い。ご子息か。いずれにしても下層の自分には縁の無い人間だと荷物を抱え直して急いで踵を返した。その時その青い瞳が刺すように自分を見つめていたことなど知る由も無く。

  

翌日皿洗いをしていた時に店長に呼ばれた。奥の個室にはオーナーである成金中国人が来ていた。彼は俺にこの料理店は辞めて屋敷の方に移り、夜の間だけ接客の仕事をするようにと言ってきたのだった。

最初に教授に頼まれた時は面倒そうに適当にここの仕事を押し付けたその男がどうしたことかやけに愛想良くそんなことを言い出したのは不思議だったが、まともな部屋と昼の時間が与えられるのは願ってもないことだったので喜んでその話を受けた。

 その金持ちの家では毎夜のようにパーティが開かれていた。

特に仮面舞踏会が好まれていたようだがつまり、仮面をつけ名を伏せた上流階級が密かに出入りしこっそりと悪い遊びを楽しむ・・・オーナーはそういった場所の提供をしていたのだ。

 俺の仕事は高貴な方々を丁重に御案内し酒や料理をサーブするというものだった。料理店で朝から晩までこき使われていた時と比べればたいそう楽な仕事だった。

 毎晩多くの人々がやって来たがその中に一人仮面では隠しきれない華やかさを持つ美しい紳士に気づいたのはほどなくしてからだ。それは以前届け物をした際に侯爵家で見た美麗な若者であった。そう、彼こそがまさにコンウェル侯爵だったのだ。

 侯爵というステイタスと美しい外見を持ちながら気さくなその人は誰にでも明るく話しかけ、そして自分にも大学の話などを気軽に聞いてきた。なんと驚くことに彼は自分よりも年下だった。

そういった年の近いことへの親近感や、彼が身内を次々と亡くし、家を守る為にやむなくその若さで爵位や領地を継いだという身の上話に同情したこともあって、自分の方も出身や境遇、大学での勉強が思うようにいかないといった悩みなどもつい漏らしてしまったりしたのだった。

 そうして数か月働いたがやはり授業料の支払いが厳しくこのままではだめだ、昼も何か仕事をさせておらおうかと考えあぐねていたところをまたオーナーに呼び出された。

「仁。おまえはすっかりコンウェル侯爵に気に入られたようだな。さっきそこの執事が来てな。おまえを雇い受けたいと言われたんだ。ちょうど頭のいいアジア系の人材を探してたとかで、大学に通いながら少し仕事を手伝って欲しいそうだ」

 「え・・・俺をですか」

 「おまえ、以前コンウェル家に届け物をしただろう。あの時からずっと気にかけててくれたそうだぞ。あの方は高貴ながらも偏見を持たない御方でね。俺のような成金の中国人にだってまったく普通に礼を尽くしてくれる。御自分の会社でも有能な有色人種を重用することで多くの事業を成功されてるしな。おまえをこっちの仕事に移したのも侯爵様が直々におまえと話をしてみたいとおっしゃったからだったんだ。会話力や働き振りなど密かにチェックされていたようだが良かったな、おまえは認められたんだ。同胞が認められるというのは嬉しいものだよ」

 「そうだったんですか・・・」

「勉強しに来たのにそれができないおまえの境遇をとても心配してくださってる。あの方は奨学金制度にも関わってるから助けてもらうといい。卒業まで学費はもちろん生活の一切の面倒を見てくれるそうだ。それで仕事ってのはこれから中国の方に進出するためにああだこうだだからむしろ数年後には中国の方に移って働いてくれる奴が欲しいそうなんだ。おまえ卒業さえできればすぐに上海に帰るって言ってたろう?」

 「はい。帰ります。でもそんな夢みたいな話を信じていいんでしょうか」

「侯爵は女王陛下にも通じている。誰もがおまえを羨むだろうよ。とにかく信じて間違いは無いさ。良かったじゃないか、なあ?」

  そんな立派な方が秘密のパーティでドラッグや享楽に耽っているのもどうかとは思ったがそれは紳士の嗜みの一種だと言えなくもない。若くして全てを背負わされたプレッシャーからの逃亡でもあったのだろう。とにかくもう自分には他にすがれるものは無かった。この国で死ぬわけにはいかない。なんとしてでも自分はルウの元に帰らねばならない。これは竜神が与えたもうた幸運なのかもしれない。

「わかりました。行きます。今までお世話になりました」

  そして俺はその日のうちにほんの僅かの荷物をまとめ、再びあの門をくぐることになったのだ。

 

玄関で事情を話すとこの屋敷の執事という者が出て来たがそれは今日来た者とは別人だということだった。彼はこの別宅を取り仕切る執事であり、それとは別に本宅の執事というのがいるらしい。まるで分からない世界だった。

 その本宅の執事が外出中とのことで応接室に通された。これがなんとも豪華で居心地が悪い空間で、目もくらむような調度品に囲まれ恐らく自分の給金の100倍はするのであろう最高級のカップで出された紅茶に手を付けることもできずただじっと座っているしかなかったが、ついにその所在なさに耐えきれず通りがかりの花束を抱えたメイドに声を掛けた。

 「すみません、今日からここで働くように本宅の執事さんに雇われた者です。何かお手伝いすることはないでしょうか」

 「ウェーバーさんに?まあ。あなたが」

 メイドは自分の顔をじっとみるとなぜか憐れむような表情で言葉を詰まらせた。

 「ではお風呂の用意を手伝っていただけますか。この薔薇はご主人様のバスルーム用なので花びらを入れておいて下さい。私はローブを取りに行ってきますので」

 「薔薇を?花びらをちぎって・・・ですか?」

 「はい。ご主人様はいつもそうやってバスをお使いになるのでこれからも・・・あ、なんでもないです。では私は・・・」

 忙しそうに去って行くメイドを見送り真紅の薔薇の花束を抱えて教えられたバスルームへと向かった。こんな広いバスタブを見るのは李家の本宅以来だ。何が入っているのか乳白色の香りのよい湯に薔薇の花を浮かべた。

この色はルウに似合う。いつか自分もこうして山のような花束を抱えておまえの元に帰りたい。帰れるのだろうか。上海を出た時にはこんな暮らしは思いもしなかった。自分はどうなって行くのだろうか・・・

「ふうん?おまえが新しいバブルボーイ?」

 背後からふいに声がかかり花束を落とさんばかりに驚いた。気配を感じることができなかった。なんと自分は衰えてしまっていることか。慌てて振り返るとそこにいたのは薔薇さえ霞むほどの見目艶やかなコンウェル侯爵だった。

 今まで話した時は彼は仮面をつけていたのでこうしてその恐ろしいほどに青い目を間近で見ることは無かった。浴室の淡い照明に照らされてその髪は燃えるような黄金の炎を放っている。神々しいほどにまばゆいその姿から目を離すことができなかった。

「ご主人様!こちらにいらっしゃったのですか。探しました」

 更に背後から声が聞こえ、浅黒い肌のこちらも彫刻のように整った美しい顔の男が現れた。それはあの時車からまず降りてきた者だった。ご主人様と言うからにはこちらが執事か?

 「だっておまえ、薔薇の香りに誘われて風呂を覗いたら黒髪のアドニスが私を待っていたのだぞ?この誘いを断れと言うのか?」

 「黒髪の?いや今日の子は北欧系の・・・なんだ君はチャイニーズの学生じゃないか。応接室にいないと思ったらこんなところにいたのか。取りあえずここは出なさい、君にしてもらうのはそういった仕事ではない」

 「す、すみません、勝手なことを」

 「いいじゃないか。仕事熱心なのはいいことだよ、なあ?さあでは一緒に薔薇の湯に浸かろうか」

「ご主人様。今日のところはご容赦ください。バブルボーイは例のところからきちんと用意してございますので」

 「なんだあとのお楽しみか。ふふ。ではまたすぐに会おう」

 

  

「待たせたね。私が執事のウェーバーだ。今日店に行ったのは私だ。君は・・・」

「レン・リーです」

 「レンか。君は幸運だな。我がご主人様の目に敵ったのだ。どうか存分に学問に励みそしてその力をご主人様の為に発揮しなさい。あの方はお若いが経営者としての実力は欧州一と言っても過言ではない方だ。けっして失礼の無いように逆らうことなくお仕えするように」

 「はい。分かりました」

  そうは言われたもののさすがにただの有閑貴族ではなく最高経営者でもあるコンウェル侯は各地で様々な仕事があるようで、この別宅にはその後数週間の間戻ることはなかった。

そして自分はただひたすら本来の目的であった大学での勉学に励み、なんとか卒業の目途もたてることができたのだった。

 ある日学校から戻ると屋敷がいつもよりも慌ただしかった。今晩は侯爵がこの屋敷に滞在すると聞かされた。そして本宅の執事からの指示とのことで今度こそ本当に侯爵のプライベートルームで待つようにと言われた。

 俺はルウを心から愛していてその証として体を求めはしたが、本来はそういった性癖は無い。だからこうして男性に寝室に呼ばれたとしてもそれが性的な意味を持つとは自然に考えることができなかった。その時も自分はただ年の近い話し相手として、そして事業を手伝う部下として、そんな甘い気持ちだけでなにも考えずにコンウェルの寝室に向かったのだった。

やがてドアが開き相変わらずきらきらと艶やかなコンウェル侯爵が入って来た。

まずはお礼を述べようとするとそれよりもまず入浴をと言われた。

それでもまだ自分は、このような方と一緒に風呂を使うなど許されるのだろうかといった遠慮はあったがやはり性愛めいたものには考えは及ばいでいたのだった。

 侯爵の体は彫刻のように美しかった。いつの間に鍛えているのかしっかりと筋肉もつき、手足は長く肌はきめ細かく、天は一体この一人の者に何物を与えるのかと思わず溜息がでるほどだった。

 「私を美しいと思うかい?」

 「はい」

 「ふふ。確かにね。でも哀しいかな私はそうした賛美に酔いしれることができないんだ。なぜなら私はもっともっと美しい完璧なる美を知ってしまったからだ。しかもそれは衰えることなく生涯最高に美しく輝き続ける。私がいくらそれを超えるものになろうともあるいはそれを他に求めようとも、だめなんだ」

「え・・・あの・・・」

 「何でもないよ。ああいいねえ。やはりアジア人のしっかりした体躯はいい。しかも君は背が高くて足も長い。東西の良い所を兼ね備えている」

 「いえ俺なんかそんな・・・」

 「勉強も頑張ってるようだね。金の心配はしなくていいから最高に知識を身につけておきなさい」

 「はい。ありがとうございます」

「で、レン?君女性の経験は?」

唐突な質問に背を流す手が止まってしまった。幼少のころからルウと勉学のことしか考えてこなかった自分にはそういう類の話には全く免疫が無かったのだ。

「あ・・・ありません」

 「ふふん。では男性は」

「あ・・・」

「あるのか。そうか。いいね。抱かれたことは?」

「あ、ありません!」

「そうかそうか」

 侯爵は嬉しそうに笑うともういいからと海面を取り上げ、逆に俺の背に泡を立て始めた。その手がやがて体に絡み付き後背部をいやらしく撫でた。

 「コンウェル様。そういったお戯れは・・・俺はあの・・・」

「痩せすぎている。もう少し美しい筋肉をつけないとな。かつてはカンフーをやっていたと言っていたな?では大学の講義の後にレッスンを再開しなさい。最高の師範を手配しておく。それにこれからはおまえ専用のシェフをつけてやろう」

「そんなことまでしていただくなんてできませんっ!」

「東洋人は遠慮深いな。これは相応の対価だよ、レン。君は私好みの体になりそして私を存分に満足させないといけない」

「な・・・何を仰っているのか・・・」

 「まずは今日はテイスティングだ。次からはしっかりと仕事をしてもらうから今日だけは黙っておとなしくもてなされていなさい。バージンなんだろう?私に任せていればいい」

「うあっ・・・」

 侯爵の腕力は予想をかなり上回るものだった。それでも自分だって腕には自信があるしこのまま抵抗も逃亡もできなくはなかった。

でも今ここから逃げて自分はどうなる?全てが終わってしまうのではないか?

 自分の計算高さが恨めしかった。プライドと人生を計りにかけた。そして・・・選んだのだ。ルウとともにある未来を。

 ルウ以外の者と体を交える嫌悪感。同性に手籠めにされる屈辱感。様々な思いに身が引き裂かれるようだった。

これは仕事だ。そう必死で思って正気を保つしかなかった。楽な仕事だ、心さえ無にすればあとは耐えていればいいだけなのだから。

もてなすとの言葉通り、その夜の侯爵は優しくある意味紳士的で行われていることは疑似恋愛の延長のようなものであった。

しかしその後心を無にすることも叶わず最悪の地獄にこれでもかと踏みしだかれ生きる希望も無くしてしまうことになるとは・・・その時はまだ思いも及ばなかったのだ。

  

 

優しくとは言っていたがそれでも通常の行為ではないそれの残痛は翌日までも響いたがせっかく行けるようになった講義を休むわけにはいかない。なんとか冷静を保ち外に向かおうとした廊下で、初めてここに来た時に薔薇を渡されたメイドと対面してしまった。彼女は驚きの表情でじっとこちらを見据えた。

そうか、知っていたのだ。自分が男妾、いやそれ以下のただの玩具としてここに雇われたことに。だから初めて会った時にあんなに憐れんだ目で俺を見たのか。そして今、他に何の仕事をすることもなくただこうしてのうのうとこの屋敷で囲われて暮らす自分を心底軽蔑していることだろう。 気まずさに目を伏せて急いで通り過ぎようとした時に腕を掴まれた。

 「あなた。あなた・・・無事だったの。まあ。なんということ。良かった・・・」

 「え?」

「いえ何でもありません。すみませんでした」

 思いがけない行動と言葉の意味を問いただそうとしたがメイドは慌てて周囲を伺いながら逃げるように去って行ってしまった。

主人の寝室に呼ばれて戻って来た使用人はいないという噂がまことしやかに流れていることを聞いたのはそれからしばらくしてからだった・・・

 

コンウェルはまた暫く屋敷には戻らなかったが、一週間後にようやく訪れた際には待ちかねたように自分を部屋に呼んだ。約束通り大学に通い、使用人のものとは別の豪華な勉強部屋と食事を用意されている以上逃げることも逆らうこともできようはずがなかった。

命ぜられるままに服を脱ぎベッドに横たわると、コンウェルは豪華な飾りのついた箱から次々と怪しい道具を取り出し自分へと使うのだった。

 「私は白くて細くて今にも壊れそうなのが好きなんだ。だけどそういうのはちょっと遊んだだけですぐにだめになってしまうんだ。本当に壊れてしまっては面白く無いだろう?だから頑丈なので遊んでみようと思いたった。もちろんただ頑丈なだけじゃだめだ。美しくなきゃいけないしそれ相応に相性だって必要だ。君は合格だよ、レン。今の私の最高の玩具だ」

「これ・・・いや・・・です」

「いや?何が?そのバイブレーションのことかな?だっておまえそんなに感じて前をそそり立たせているじゃないか。ほらこんなにも蜜を滴らせて」

「あ・・・ああっ」

「どうして欲しい?レン。言ってごらん」

「う・・・」

「いいねえ、強情だ。そういうのが欲しかったんだよ。はははっ!」

「はうっ!」

 コンウェルはせせら笑いながらいきなり背中を鞭打った。激痛に一瞬息が止まった。

 「おいおいこの鞭は子どものおもちゃだよ。全然痛くないだろう?これから少しずつ慣らしてやるからな?一撃で骨も砕くようなすごいのだってあるんだよ?ん?怖いか?どうした?」

情けない。恥ずかしい。死にたい。いや・・・死ねない。何をしてでも生きると、そして帰ると決めたのだ。そのためにこんなことをしているのだ。

何度も何度も打たれて気が遠くなりそうだった。そして皮の道具で縛り上げられた下半身は不可抗力な刺激で膨れ上がり苦しみの極地だった。

「さすがだよ、レン。ここまでしてもおまえはびくともしない。こういうのが欲しかったんだ。ん?だいぶ血が出たな。かわいそうに」

 傷口から流れる血にコンウェルは嬉しそうに口を這わせ舌で舐め上げた。そして歯を使った。

「固いけれど綺麗な肌だ。ああ綺麗だよ、レン。私は人種差別なんかしないよ、綺麗なものはみんな好きなんだ。おまえは綺麗で強くて賢い最高のチャイナドールだ」

体中の傷を舐め歯型をつけるとコンウェルはうねり続けていたバイブを引き抜いた。そして衝撃で反った背中に馬乗りになると容赦なくその空間に別にものを突き込んだ。

 「うあああっ!!」

 「どうだ気持ちいいか?ん?ほら、レン、どうだ?」

 「うううっ・・・」

 「ほら声を出せ、もっと鳴け、もっと、もっとだ!」

「う・・・あ・・・ああっ!あーーーーーっ!!!」

 

いくら傷つけられても、ルウのために鍛え上げた肉体はそう簡単には壊れなかったし加えてコンウェルが密かに差し向ける医者が塗りたくる怪しい薬はどんなに深い傷も化膿させることなく癒してしまうのだった。 

壊して直してさらに頑丈にしてまた壊す・・・この果てのない異常な遊びをコンウェルは殊の外お気に召したようだった。

 

 

「うっ!」

 「綺麗だな。私は真紅の薔薇が大好きなんだ。これは私の大切な人がこよなく愛していた最高級の株だ。特別におまえに分けてやろうというのだよ、嬉しいだろう?」

 「っ!」

 「ほら動くとうまく刺さらない。もっとしっかり勃たせておけよ。ん?棘が痛いか?でも棘があってこその薔薇。無ければ価値が下がるというのが私の持論だからね。大丈夫だ、傷にはあとでスコッチをたっぷりかけてやるから。おい、もっとだ!ウェーバー」

執事が無表情に手に持ったスイッチを押すと、尻に仕込まれた電極が敏感な部分を刺激し生理反応で薔薇を咥えたものが立ち上がった。棘が肉に食い込み恐ろしいほどの痛みが下半身を襲うが猿轡を嵌められた口からは叫び声を漏らすことはできなかった。

「いいなあ。どうだ、ウェーバー。人と薔薇とはこんなにも美しく調合するのだ。そうだ今度人を温床にして生血を吸った薔薇を育ててみようか、なあ」

「うっうっ!」

「おお怖がらなくていい、レン。おまえの体はそんなことには使わない。そんなのは別の奴らにやらせるから大丈夫だ。うん、ちゃんと運動をして栄養も摂っているようだな、いい筋肉がついてきた。これなら打ちがいもあるというものだ。ウェーバー!」

「はい」

執事に差し出された鞭で思いきり腹を打たれると体に押し込まれた薔薇がはらはらとその花弁を散らせた。

「うっ!うっ!」

 「薔薇は散るからこそ美しい。いつまでも美しく余韻を残す・・・」

 そう言って誰かを思うかのように遠くを見つめた侯爵の目が赤く変わった。そして狂ったような鞭打ちの痛みの中で意識は白く霞んでいった。

大丈夫。俺は大丈夫。

俺は心まで売ってはいない。俺の心はルウのものだ。

いくら能力のある王者でも側近が優秀でなければその実力は発揮されない。

だから俺がルウを支える。俺でなければいけない。俺がいなければだめなんだ。

力ある者を恐れる小者の翼劉よ、頭の悪い長老どもよ、俺はおまえらの思惑通り遥か大陸の果てに流されたが今は感謝してやる。英国最高学府で最高の経営学を学べた。おまえらの想像も及ばないような大富豪とのコネクションができた。おまえらが見たこともそして一生触ることもできないだろう最先端の情報処理のテクまで身につけた。

頭も体もルウのために磨いたのだ。いくらだって使ってやる。

俺は・・・俺はルウのために・・・

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(2014/7)




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