Eternal Connection


証が欲しい訳じゃない。
でもこれがおまえの存在理由になるのなら。
日の光が注ぐように自然に、愛を与え合えるなら。


「美味しくない。やはり買わなければ良かった」
「私もそう思います。その舌使いは正視に堪えない」
「そんな理由で睨まれていたのか」

街角のベンチに座り、屋台のミルクバーなるものを買ってみたがどうにも口に合わない上にウィンが不機嫌そうに見ているのが落ち着かなくて半分以上廃棄することになった。

「涼を取れば冷えるかと思ったがやはり暑い。冷酒が欲しい」
「上着を着てくればよかったですね」
「上着?暑いと言っているのが聞こえないか」
「白いシャツが汗で・・・淫ら過ぎます」
「さっきからどうして俺は訳も分からんことで睨まれ責められるのだ」

肌に貼り付く布地は気持ちが悪い。脱いでしまったって一向に構わないがさすがにそんなことはしない。

「舶来物の店が増えたな」
「覗いて見ますか」
「今日の目的を果たしてからだ」

名を言えば、いや言わずとも顔だけで全てのことが勝手に行われた昔とは違う。面倒な手続きだって自分でしなければならない。
外よりは幾ばくか涼しい古い建物の中に入った。
特別室で酒を飲んでいる間に誰かが勝手に手続きをしてくれる訳も無いので仕方なく他の者に倣って固い椅子に座り待っているとウィンが書類を持って戻って来た。

「なんだ。何がおかしい」
「いや・・・そぐわないと言うか・・・」
「悪かったな。椅子に座るのに何か庶民の決まりでもあるのか?それで終わりならさっさと行くぞ」
「これを書いてもう一度来るんです」
「厄介なことだ」
「そういう時代ですから」

尻の痛くなる椅子で散々待たされてまた出直して来いと言われそれに黙って従う。庶民というのはよほど辛抱強い者でないとなれないようだ。

「さっきのあれがまだ口に残っていて気持ちが悪い。喉が渇いた、酒が欲しい」
「昼間からですか。どこかで食事をしますか?」
「腹は減っていない。物を食べるのは面倒臭い」
「全く我儘ばかりですね」
「酒がダメならおまえでいい。口直しを・・・」
「こんな街中で何をしろと仰いますか。ヨーロッパならまだしもここはアジアですから礼節を弁えましょう」
「つまらん」
「自分は何もしなくても目立つ存在であることをいい加減分かって下さい。もう一生分の面倒事は経験したのですから余生はどうか大人しく・・・」
「ああうるさい。本当におまえはうるさくなった。どうして俺の周りには入れ代わり立ち代わり必ずうるさい奴が存在するのか」
「みんなあなたを愛しているからです」
「俺だって愛しているがうるさい事は言わない」
「それだけ我儘を言っていれば同じ事です」

そう言いながらも車が双方からよぎって視界が隠れたほんの僅かな一瞬に口付けられた。
驚く顔を不敵に見下ろしてくる。
本当におまえは。

いつの間にやら俺はすっかり飼い慣らされているようだ。
まあ、そんなおまえも悪くは無い。

「舌使いが変わった」
「そうですか?」
「淫猥だ」
「あなたに言われるのは心外ですが」

家に着くや否や靴を脱ぐのももどかしく抱きしめ合った。

「飽きないのか?」
「何にですか?」
「俺の体に」
「残念ながらあと四千年は飽きそうもありません」
「信憑性の欠片も無い言葉だ」
「真実ですよ?」

ああそうだ。俺もおまえに飽きるどころか日を追うごとに嵌まり込む。離れられない。例え実の無い契約であろうとあらゆる手段でおまえを縛る。

鱗の一つ一つが絡み合う。
溶けて全てが同化する・・・



「これで正確なおまえの名も年齢も分かった訳だが、別に何がどう変わるというものでもないな」
「それはそうです。私は私ですから。私の名前は清劉がつけてくれたウィンディだけです」
「本当にジェネラルイズノハラの息子だったのだな。イズノハラショウキ。確かに呼び辛いしお前のイメージでは無い。記号のようだ」
「ただ一度署名すればよいのでしょう?これが最初で最後です。ああ字体が難しい。これで合っていますか?」
「大丈夫だろう。ではこれで正式におまえは俺のものだ」
「・・・私はとっくにあなただけのものですけれどね。それより清劉。あなたの年齢はこれで合っているのですか?誰も信じませんよ、きっと」
「さあ。多分。数えたことは無いから分からない。仁に聞けば分かるだろう。あれとは確か同じ年だ」
「・・・知っていたのですか?」
「だからおまえのプログラムなど穴だらけだと言っているだろう?俺より先に感動の再会を果たすとはおまえらは随分仲良くなったものだな?で、仁はなんと?」
「所在は知りません。勝手にハックされて勝手に状況報告をされているだけで・・・次の誕生祝いにはサプライズで会いに行きたいから黙っていろと・・・」
「黙っていろと?」
「・・・あ・・・」
「おまえにサプライズの片棒を担がせた時点で失敗だったな」
「片棒だなんて冗談じゃない。別に仁と馴れ合ってる訳じゃありませんから。でもあなたを驚かせて祝うことはしたかったから」
「いや今驚いたからいいだろう。俺すら忘れている俺の生まれた日をあいつは知っているのか!愛されているな、俺は」
「・・・清劉」
「そんな顔をするな。大丈夫だ。今度はちゃんと仁におまえを紹介しよう。俺の家族であり生涯の伴侶だと。なあ?小小」
「その名前は止めて下さい・・・まったくあなたは。後でまた泣いても知りませんからね?」
「おまえにだったらいくらでも泣かされてやる。もう俺にはおまえだけなのだから」

俺だけの名。ウィンディ。
おまえの全ては過去も未来も俺のもの。

「誕生祝いなんていつ以来だ。そうだな、あの頃も仁は俺の好きな物を山のように抱えて祝いに来てくれた。家族は皆忙しかったしちびの俺のことなんか忘れられていたから二人きりで・・・。そうか。ちょうど七夕の星祭の頃だった。夜中に雨が止むのを待って天の川を見上げた」
「可愛らしい思い出ですね。そこに私が入っていいのですか。などとは聞きません。当然これからは負けずに祝います。私は年に一度の牽牛ではありませんから」
「別に競って祝って欲しい訳ではないが・・・。でも今年は楽しみだ。嫌がるだろうが秀徳も呼んでやろう。もし体が大丈夫なら爺も」
「だったら私が日本に迎えに行って付き添いましょうか」
「頼もしいな、リトルジェネラル。幾多の名を持つ男か」
「・・・留守の間清劉が一人で寂しいと泣き出さなければ、ですけれどね」
「・・・やはりおまえは漆黒の小だ」

特別な日を一緒に過ごす幸せ。

おまえに貰ったものを、少しでも俺は返そう。
俺が愛する全ての人に。

何よりその頂点に居るおまえに。
この特別な日に、この先四千年の愛を誓う。




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(2011/04)




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