Midnight telephone call
 
 

「はい・・・また迷惑電話ですよ」
「そろそろチェンだろう」
「ええ」
「トルーファが2日に1回。チェンが5日に一回。だいたいこのパターンだな」
「全く迷惑な話です。用が無いなら掛けてこないように言って下さい。特にあのお子様は時差なんてもんを全く考えずにっ!」
「あー分かった分かった無駄だと思うが言っておく、取りあえず今はチェンだ」

 

 

『あいつの電話の受け答えはなってないな。あいつを通さずにおまえと話せないものなのか?』 

「なぜか俺の耳には電話の音が聞こえない。悪いな、関心が無いんだ。そうだチェン。どうだった、婚約式は」 

『豪華絢爛美麗荘厳。まだ目の前がチカチカしてる気がする。婚約であそこまでするんだったら来年の婚礼はどうなるんだか。庶民には想像もつかない』 

「しばらくはあの国には近付かないに限るな」 

『まったく。おまえが来ないのを怒ってたぞ。王子様。ま、怒りの矛先は馬鹿犬の方だったけどな。あれがおまえの参列を邪魔したと思ってるようだ』 

「ウィンは関係ない。自分が行きたくないから行かなかった」

 『だろうね。おまえがあんなつまらん式典に参加する訳が無いとは思ってたが』 

「別にわざわざ人の多い時に行く必要は無い」 

『あのな。皆好き好んで行く訳じゃ無いぞ。王様に招待されてそんな理由で断る無礼者はおまえ位だ。坊やはなあ、晴れ姿をおまえに見てもらいたかったんだろうに。また一段とおまえ好みのいい男になってたぞ。有り難いことにおまえと親戚だというだけで俺の株も急上昇で山ほど土産を持たされた。大半はおまえに渡すように言われてるが。この大量の宝石・・・俺が苦心して贈った、たった一粒が空しくなる』 

「要らない。おまえの紅玉が一つあればいい」 

『嬉しいね。しかしルウ、どんな手を使ってあの坊や王子を陥落したんだ?あの心酔には俺も負けそうだ』 

「別に普通に接してただけだ。ああいう特別な奴は普通に扱われるのを好む。それだけだろう」 

『それだけじゃないだろうがな。まあ人に関心を向けないおまえに構われたってだけで永久の忠誠を誓いたくなるほどに魅了されてしまうからな。加えてキスの一つももらえれば馬鹿な男は命だって掛けるだろうよ』 

「なぜ知っている」 

『・・・したのか』 

「何か問題が?」 

『・・・馬鹿犬には言ってやるなよ・・・』

 

 ○

  

「長電話でしたね」
「電話は掛けた方が切るものだとおまえが言ったのだ」
「あの人たちには世間一般の常識を当てはめなくていいですから。はい、お茶をどうぞ」
「見ろウィン、新聞に載っている。ふうん、確かに少し大人顔になったな。体も大きくなったようだ、悪く無い」
「おっと明日は古紙回収の日ですね。はい貸してください、まとめておかないと」
「まだ読んでいるのになんだ」
「しかしまああの子も妻帯者となるからには暫くはさすがに身動きが取れないでしょう。平穏な日々が戻りそうです、良かった良かった」
「新法の制定に忙しいらしいしな。でもあいつのことだ、自分のいいように法を変えてそのうち世界を飛び回り始めるぞ」
「そんな独裁は許されません」
「許されてしまうのがトルーファの凄い所なのだ」
「誰が許したって私は許しませんよ!こんなっこんな綺麗な婚約者を隣に侍らせておいて何をっ何をっ!妻など一人いれば十分です!」
「落ち着け、何を興奮してるんだ。千切る位なら新聞を返せ。トルーファが羨ましいのか?いいじゃないか、別にいくらでも娶らせてやれ。結構精力はありそうだったしどんどん子孫繁栄させればいい」
「うぐっ!あんな男の嫁にはやりません!」
「嫁になど行かないと言っているだろう!いつまでも戯言を言ってると絞め殺すぞ!」
「ええ望む所です。私の屍を超えて行きなさい!」
「話にならん。ほんとにおまえはトルーファのことになるとおかしくなるな。ん?どうした?」
「・・・電話が鳴ってます」
「怒りながらよく聞こえるな。随分早い時間だ。今日はちゃんと時差を考えてるようだ」
「ふん。たまたま偶然でしょう」
「じゃあコトの最中に掛かってくるのも偶然だ。許してやれ」
「・・・」
「ああいい、いい、俺が出る」

 

 ○

  

『おお清劉が電話をとるなんて珍しいな!従者はどうした。首にしたのか?ああもうようやく時間が取れたよ。でもたった一時間だけだ、悲しいな』 

「そんな貴重なオフタイムは電話などしていないでゆっくりしておけばいいのに」 

『冷たいことを言うな!俺の最優先は清劉なのに!』 

「国事を最優先しろよ。それと婚約者」 

『・・・ちゃんと毎日面会時間を取っている。未来の第一夫人への礼は尽くしているぞ。でも俺が本当に愛してるのは』 

「はいはい、分かった分かった。全く困った奴だ。婚約者に対して必要なのは面会だの礼だのじゃ無かろうに。恋愛も指導してやらなきゃいけないのか?」 

『ぜひしてくれ!今度一日時間が取れたら専用機で会いに行くからな。清劉の家には滑走路はあるか?』 

「ある訳ないだろう」 

『では空港からヘリで』 

「あいにくヘリポートも無い。おまえの宮殿の物置よりも狭い家だ」 

『そんな貧しい暮らしは全てあの従者の所為だな?そんな物置になど清劉を置いておくことはできない。一刻も早くここに迎えなくては。早く専用の宮殿を』 

「作るな。いらん。国の予算を無駄遣いするな」 

『なら私財だったらいいのか?確かにかえってその方が豪華な宮になる』 

「どれだけ小遣いを持ってるんだおまえは。俺はいいからまずはちゃんと何人かの女性と結婚して世継ぎを作れ。話はそれからだ」 

『ああもう、見てろよ?これでもかって程がんがん殖やしてみせる!そうしたら絶対に来てくれるんだよな?』 

「その頃には俺なんかより奥方達の方が良くなってるさ。で?そんな甘い話だけじゃなんだろう?わざわざ電話して来たのは」 

『あ・・・ああ』 

「ん?」 

『ガニのことで・・・』 

「恩赦の制度を去年のうちに整えていたのだよな。第一号か」 

『あの時の一派は全て釈放して・・・でも会うことは叶わずみな国外に・・・』 

「そうか。会いたいと互いに願えばいつかきっとまた会える。俺は会えた。大丈夫だ」 

『・・・』 

「寂しいのか?」 

『寂しいに決まってるだろう。だから清劉に側に居て欲しいんだ』 

「ほんとに。どうして同じ我儘を言ってもおまえは可愛いんだろうな」 

『か、可愛いって。まだ子ども扱いをするんだな!』 

「見ているよ、いつも。ちゃんと見ている。だから頑張れ」 

『うん・・・分かった・・・でも会いたい。会いたいよ、清劉』 

 

  

ーよお親友 

「・・・」 

ー反応無し?寝てるなら回線切れよ。貧乏人は節約しろ 

「仕事中です。いい加減勝手に侵入してくるの止めてもらえませんか?しかも何ですかこの受信プログラム!いつの間にこんなものをDLさせて!」 

ー凄いだろ、これ。これでおまえのパソコンは俺専用テレビ電話だ。ああちなみにこっちにはおまえの顔は見えない。なぜなら見たくないからだ。しかし気付かないなんておまえのセキュリティは全然ダメだな。低能は廃業しろ 

「・・・で何ですか?用事があるならさっきの電話で言えば良かったでしょう」 

ーこうして直におまえのとこにアクセスしたい恋心を分かってくれよ。ってかおまえ、ちょくちょくパスワード変えるなよ。解読は面倒臭いんだから 

「わざわざ変えてる意図を理解できないんですか?」 

ー怒るな。ルウが若い大金持ちの見目麗しい恋人と長電話中でおまえが暇だと思ってこうして相手をしに来てやってるんじゃないか 

「・・・電話の盗聴までしてるんですか、あなたは」

 ー小さいことだ、気にするな 

「私は犯罪者と話す趣味も暇もありません。切りますよ」 

ー冷たいな。俺はいつだっておまえのことを心配してるのに。今回だって釈放された偽物の小をすかさずインターポールに引き渡してやったんだからな。これでおまえも暫くは安泰だ。感謝しろ 

「その件に私は全く関係無いですから」 

ー馬鹿。偽物が逆恨みしておまえを殺したらどうする、俺は嬉しいがルウが悲しむだろう 

「だからなんで私がそんな訳も分からないことで殺される必要があるんですか!」 

ーおまえは自分を過小評価し過ぎだ。おまえなんか世界的に恨まれてるんだからな。ざまあみろ。もう少し危機感を持て。ちなみに俺は実はそんなに悪いことはしてないんだ。合法の範疇での活動ってやつだな 

「どこが合法だって!?ハッキングも盗聴も犯罪!ああ、そうだ、あなたは幼児虐待の淫行犯罪者でしたね」 

ー襲われたのは俺だ 

「そんな言い訳が通用するとでも?出るとこ出て白黒つけましょうか?」 

ーふふん。そんなのを訴えた所でリョーニャが同意する訳が無い。ってか俺をそんな目に合わせたらリョーニャが激怒して帽子屋を呼ぶだろう 

「どこまでトラの威を借りてるんですか!」 

ーそれが賢い者の生き方だ。見習え 

「ウィン?一人で何を怒鳴ってるんだ?」 

ーラブコールタイムは終わったようだ。じゃあ俺はこれで。もうパスを変えるなよ 

「二度と関わって来ないで下さい!」 

 

○ 

 

「仕事中だったか?」
「いえ、大丈夫です。ただの幼児趣味のペテン師の寝言を強引に聞かされてただけですから」
「おまえ変な奴と付き合ってるな」
「電話・・・長かったですね」
「ああ、まだ話足りないらしいが連行されて行った。ははは。大変だな。王になどなるもんじゃない」
「何をそんなに話すことがあるんですか。恋人でも無いのに」
「恋人だったら長話なんかする必要は無いだろう?そんな暇があったら他にしたいことがある」
「あの・・・あまり聞きたくは無かったのですが思い切って聞きます。清劉は私のどこが好きなのですか」
「本当のことを言ったらまた何か言われそうだ」
「何なんですか・・・やはり・・・体・・・」
「分かってるじゃないか。体が一番好きだ。おまえ以外としたくない。おまえだけが俺を最高に感じさせる」
「ううう・・・」
「どうしてそれを卑下する?俺にはそれが絶対条件だ。好む体に一生の内巡り会える可能性がどれ程だと思ってるんだ?少なくとも俺はおまえ以上の体に会ったことは無い。体よりも心?おかしいだろう。そんな不確かなものは俺は信じない。見える感じる、この体が全てだ。心は変わるから不安になるのだろう?俺はおまえの体がある限り不安にはならない。安らげる。幸せだ」
「そんな畳み込むような理論武装で・・・」
「おまえも俺の体を好きになればいい。そうすればつまらないことで悩まなくなる」
「それはっ!それは勿論好きですよっ!いつだって考えてますよ!」
「こんなことを?」
「ど・・・どこを触って・・・」
「勃たせてるから触ったんだ」
「触ったから勃ったんです!っあ・・・」
「この形、大きさ、味、全てが俺の好みだ。ああ勿論俺が好きなのはおまえの体だけでは無いけれど、でも体が一番好きだ。相性は大切なんだ」
「私は・・・他に経験が無いから・・・相性がどうとかは・・・」
「俺だけのものか。では跡をつけておこうか」
「そこだけじゃなくて・・・本体も好きになって欲し・・・あ、そんなに強く吸ったら・・・うっ」
「つべこべ言わずに黙ってそうやって感じていればおまえだって可愛いんだ。ん?どうする?これ以上俺がその体を欲しがったらまた何か言うのか?」
「・・・いえ。もっと・・・欲しがって下さい・・・」
「今日はもう電話は無いだろう。気にせずに没頭したらいい。俺はいつも・・・そんなのは聞こえない程に・・・」
「清・・・劉・・・んっ」
「不安になったら確かめればいい・・・こうしてぴたりと体が合わさる限り・・・おまえは・・・あっんんっ」

 

 ○

  

「いいことを言うなあ、俺のルウは。あれは本当に神だ」
「あのさあ、その盗聴空しくならないか?ってか悪趣味。変態」
「口が悪いぞ、リョーニャ。俺はあいつらが心配だからこうして見張って守ってるんだ」
「そういうの犯罪だって帽子屋さん言ってた。牢屋に入れられちゃうよ?」
「はあん?あいつにだけは言われたくないね」
「人のことはいいからもう寝ようよ、はい切って切って。よそんちの秘め事は覗かな〜い」
「リョーニャ、おまえまた背が伸びたか?」
「そう?分かんない。でも一番高い棚の物が取れるようになって便利」
「あれは俺もギリだ・・・抜かされた?あーレオニード君。なぜ俺のベッドに入ってくるのかな?君はもうとっても大きいんだから一人で寝なさい」
「やだよ。何だよ、一人で寝て何すんだよ。さっきのおかずにして抜こうってのか」
「こら!おまえはどうしてそんなに口の悪い不良になってしまったんだ。お父さんは悲しいぞ」
「お父さんじゃない、恋人だ!ああもううざったいな。やるぞ、脱げ」
「リョーニャ。頼む、もっとムードってもんを大切に・・・うおっ!や、やめっ、そっちはだめだ、そっちはーあーあーー」

 

 

turn off・・・

 
 

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(2012/02)
 

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