満漢全席
 
「進みませんね」
「こんなにたくさん食べられない」
「運動の後なのに」
「・・・度を越すと逆効果だということだ」
 
小さなテーブル一杯に並べられた料理。
ウィンが食事を作るようになってから専属料理人が居た頃よりも品数が増えた。
気だるい疲れのままに眠ってしまってもよかったのに
律儀にも起き出してこうして食事を作る。
 
「なぜおまえはそんなに俺に食べさせようとする」
「・・・食べて欲しいからです」
「だったら頭を使え。量を並べればいいという問題では無い」
 
俺に経済観念が無いと文句を言う割には食費に掛け過ぎだ。
結局ほとんどが無駄になっているというのに。
 
「好きなんです」
「は?」
 
いきなり真剣な目で見つめられた。箸が止まる。
 
「あなたが物を食べるのを・・・その口元を見ているのが好きなんです」
「・・・悪趣味だな」
 
そんなことを言われ見られている状態ではますます食が進まない。
 
「このソース。この間行った料理店のものを真似てみたんです」
 
いきなりウィンが指先で皿を拭い、それを口元に持って来た。
 
「・・・舐めて・・・」
 
・・・罠を掛けられている気がするが悔しいのでそのまま無表情でそれを舐める。味が無くなってもしゃぶり続けているとゆっくりとそれを引き抜かれた。
 
次は湯を掬い、自らの口に運んだ。そして抱き寄せられ口移しで口内に注ぎ込まれる。とろみのある液体が受け止めきれずに口の端から零れ出す。
 
「ちゃんと飲み込んで・・・」
 
その後もフルコースで、様々な形で口に運ばれた。
食欲が満たせれる毎にさっきこれでもかと満足させられた筈の部分が飢え始める。
 
「もう食事はいい。おまえが食べたい」
「御意に」
 
今まで食事になど全く興味が無かった。生きる為の面倒な様式だった。
おまえと居ると何もかもが楽しい。
生きている事を存分に楽しませようとしてくれる。
 
「そう言えば・・・おまえは食べなくていいのか」
「それに関して予想通りの決まりきった返事をして欲しいですか?」
「・・・いやいい」
 
散々時を過ごしたベッドに逆戻りして別の欲望を満たす。
 
ではこれからは俺が。
おまえだけの為に最高の満漢全席を。
一滴も余さずにその体へ・・・
 
 

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(2011/02)
 

 

 

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